くるり『図鑑』(2000)

『図鑑』は1stアルバムの『さよならストレンジャー』以来9ヶ月ぶりに発売された、くるりの2ndアルバムである。

以下、1曲ずつ感想を。

 
1.イントロ

  インスト曲。『さよならストレンジャー』に収録された「虹」のイントロがかかったと思うと高速でテープが戻され、重厚なストリングスとティンパニが響く映画音楽的な様相になってくる。次の曲「マーチ」への助走として、また実験的なこのアルバムの幕開けとしてバッチリ。

2.マーチ

 宇宙的なスライドギターとジェットコースターばりの急激な緩急がついた曲展開、感傷的な歌詞。こんな曲作ってしまうなんて、やっぱりくるりは変態だ!

3.青い空(Album Mix)

 「マーチ」に続きアップテンポに激しい曲。1stでいう「虹」のように、アルバム全体の色を表す『図鑑』を象徴する曲。岸田曰く、当時そういう気分でもなかったのに、「もっとロックっぽいガツンとした曲がほしい」と言われ「わりとイライラしながら」書いた曲。

4.ミレニアム

 これまでの曲調と一転、シンプルでフォーキーな曲。どことなくBECKっぽい。サビのミニマル感がよい。

5.惑星づくり

 インスト曲。ナンバーガールが後にナムヘビで繰り広げたような音響系の音作りが秀逸。プロデューサー、ジム・オルークの趣味全開である。

6.窓

 「僕等は何もしない」と高らかに歌いあげる曲。どこか気の抜けた雰囲気ながらも、コード進行はけっこうドラマティックでセンチメンタル。

7.チアノーゼ

 念仏ボーカルが抑えつけられた狂気を感じさせる、ヘヴィなロックンロール。曲自体はかなり初期から存在していて1997年にカセットテープを出していたらしい。

8.ピアノガール

 ピアノ弾き語り調の静かな曲。メロディーは普通だが歌詞が一筋縄ではいかない。

9.ABULA

 インスト曲。ここまでが前半。「チェック、ワン、ツー」

10.屏風浦

 「ばらの花」のようなキャッチーさはないけど、海岸の情景を思い起こさせるサウンドがいい。

11.街

 ミドルテンポで情念を引きずりながら絶叫する曲。J-POPっぽい馴染みやすいメロディーではあるけれど、そこらのJ-POPと同じにされてたまるか!「夕暮れのスーパーマーケットの前で~」の歌詞はいろいろなところで見かける、くるりの代表的フレーズ。

 この曲も「青い空」と同じく、「わりとイライラしながら」書いた曲。

12.ロシアのルーレット

 ロシアンルーレットを当てたときのようにサビで急に大爆発する曲。「マーチ」よりも「青い空」よりもこの曲が『図鑑』における狂気の到達点である。へんてこリフ、へんてこギターが好きならこの曲は最高だろう。

13.ホームラン

 完全に流れをぶち切るような感じの陽気な曲。陽気な曲調に歌詞が合わずとても皮肉めいている。くるりは「リボルバー」、「ハローグッバイ」など3分くらいの曲を作るのがうまい。 

14.ガロン(ガロ~ンMIX)

 シングルのカップリングだった「ガロン」をスーパーカーのナカコーがリミックスした、10分近くあるプログレチックな曲。ゆっくりとした曲調でダレそうに思うがリズムに乗りやすく聴いていて心地よい。

15.宿はなし

 アルバムの締めは民謡風。このアルバムの色とは全く異なるが、なぜだか違和感はない。いいアルバムだったなあ、そろそろ家に帰るかあ、という気持ちになる。

 
総評

 『さよならストレンジャー』に比べて、ギターサウンドが全面に出て、攻撃的、重層的な音作りが際立っている。歌詞は内向的になり、全方位に喧嘩を売っているような感じ。

 とにかくアイデアが溢れ出て止まらない!ということなのか、1曲1曲に詰め込まれたエネルギーがすさまじく、何でこんな曲作れるんだろうかと思う。プロデュースしたジム・オルークの腕もあり、エネルギーを燃やしつつ焦燥感を漂わせながら、一方で落ち着いたインスト曲やクリーンなギターが響く曲もバランスよく取り入れている。

 このアルバム、正ドラマーであった森が「干された」といえる状態で、15曲中5曲を森ではないサポートドラマーが担当している。バンドの仲は相当悪かったようで、そんなヒリヒリした空気が時代を超えて伝わってきて最高だぜ!

 個人的には、くるりのアルバムの中で(現時点で)一番好きなアルバムであり、特に「マーチ」と「街」だけでもこのアルバムを聴く価値はあると思っている。やっぱり、くるり、すごいわ~

 

オススメはこの曲!

 2.マーチ

 3.青い空

 4.ミレニアム

 6.窓

 7.チアノーゼ

 10.屏風浦

 11.街

 12.ロシアのルーレット

 13.ホームラン

 15.宿はなし

 

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