くるり『TEAM ROCK』(2001)

ついに雪が積もった。とても寒い。これからどうやって生きていけばいいんだろう、そうだ、音楽を聴こう!ということで『TEAM ROCK』はくるりの3枚目、前作『図鑑』から約1年ぶりのアルバムである。

 

ところで、くるりからは「冬」や「雪」、「冷たい空気感」といったものはあまり感じられない。「冷たい空気感」をもったバンドといえば、まず思いつくのはブラッドサースティ・ブッチャーズ。特に『未完成』、『kocorono』、あとは『NO ALBUM 無題』あたりは冷たく、透きとおった雰囲気がある。また留萌出身というのがたまらなくいい。あとピロウズの『TRIAL』もいい。

バンドの出身地によって、音楽の雰囲気がある程度、定まるのはよくある話で、洋楽だと北欧、そしてスコットランドグラスゴー出身のバンドは「冷たい空気感」をもっている気がする。

アイスランドだとシガー・ロスビョークだろう(どっちもあまり聴かない)。ノルウェースウェーデンのバンドはあまり知らないので北欧だけのディスクガイドがあったらいいんだけどない。噂によると、実はヘヴィメタルバンドが多いらしい。

グラスゴー出身のバンドは数え始めるとキリがないけど、やっぱりティーンエイジ・ファンクラブグラスゴーの代表、という感じがある。ちなみに、グラスゴーの音楽ガイドは出ているらしい。

 

以下、1曲ずつ感想を。

 

1.TEAM ROCK

 ピアノ、ボイスパーカッション、妙なコーラスといろいろ詰め込んだポップなヒップポップ。「ロックチームくるりの かかえる苦悩」とあるように、苦悩ゆえの変化かどうかは分からないが前作『図鑑』とは全く異なる雰囲気のアルバムだな、ということを感じさせる幕開け。

2.ワンダーフォーゲル

 くるりの代表曲であり大名曲。悲しみを乗り越えて無理やり前を向いたとでも言えるような歌詞をピコピコした軽快な打ち込みサウンドに乗せて、爽やかなギターを鳴らしている。

「ハローもグッバイもサンキューも言わなくなって こんなにもすれ違ってそれぞれに歩いていく」こんな歌詞を書けるのはやっぱりすごい。そして基本的にBPMが変化することのない打ち込みの4つ打ちに「悩ましい僕らも 歩き続ける」、「こんなにもすれ違ってそれぞれに歩いていく」などの歌詞が乗ると、刻まれ続けるドラムの音色に、止まることのない時間・人生、歩き続けるしかないという決心がオーバーラップして、もうこの曲はとにかく最高。

3.LV30

 ポコポコドラム、Aメロのメロディーラインなんかは完全にマイブラの「Only Shallow」である。しかし、マイブラのように強烈に歪んだギター、フィードバックノイズがあるわけではなく 、むしろシタールのような民族音楽っぽい音色がおもしろい。

4.愛なき世界

 ここでマイブラの『Loveless』ならぬ「愛なき世界」という曲名で、「LV30」は確信犯だな、とわかる。キャッチーで聴きやすいけど、サビの歌詞が「四つんばい愛し合うため ひるまない対抗しうるために」って...やはりくるりは一筋縄ではいかない。サビの歌い方は奥田民生っぽい。

5.C’mon C'mon

 このアルバムで最もダンスミュージックというか、当時流行していたダフト・パンクなどに近いテイストの曲。

6.カレーの歌

 ピアノの弾き語り曲。アルバムの中間、中休み的な3分半。

7.永遠

 「C'mon C'mon」と同様、テクノポップ。よくリラックスできそう。

8.トレイン・ロック・フェスティバル

 前作『図鑑』のサウンドを、更にテンションを上げて、激しくした曲。2分程度でまとまっていてよい。次の「ばらの花」への繋ぎの役割も。

9.ばらの花

 「バンドで最も有名な曲」というと、普通はその有名な曲しか聴いていないにわかファンが騒ぎ立てるもので、そのバンドを長く追い続けているファンにとっては「はいはい...またその曲ね...」という気持ちになるものである。しかし「くるりで最も有名な曲」であろうこの「ばらの花」に、飽きるだとか食傷だとか、そんなつまらない思いを抱いているくるりファンはいない、そう断言できる。

10.迷路ゲーム

 ボーカルに柔らかいエフェクトがかかりながら、ゆっくり静かに流れていく曲。テクノでもあり、ピアノを基調とした曲でもあり...

11.リバー

 カントリー調で、ノリがよい陽気な曲。こういった曲が、くるりの本領という感じもする。『図鑑』のラストも「宿はなし」で、アルバムのテイストとは離れた、ポップな曲で締めるのが最近の通例となっている。

 

総評

 鋭いギターサウンドでつんのめっていた前作『図鑑』とは打って変わって、打ち込みを多用したテクノサウンドが基本となっている。

 このアルバムは「ワンダーフォーゲル」と「ばらの花」という2つの名曲を世に送り込んだだけでも価値がある。逆にこの2曲がキャッチーだった分、「C'mon C'mon」や「永遠」、「迷路ゲーム」も悪くはないのだが、だれてしまう印象になる。「春風」や「ハローグッバイ」をアルバムに入れる構想もあったそうだが、結局ボツにしたらしい。確かに、「春風」はこのアルバムの色に合わないだろうな。そして時代は巡り2016年、「琥珀色の街、上海蟹の朝」が生まれるわけだから、くるりとヒップホップの相性はいいのではないだろうか。

 

オススメはこの曲!

 2.ワンダーフォーゲル

 4.愛なき世界

 9.ばらの花

 11.リバー

 

 

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