2018年マイ・ベスト・アルバム(邦楽編)
毎年恒例、一年の音楽を総括する時期が来た。
各メディアやとてもつよい音楽マニアたち(褒め言葉)のブログを参照すればいくらでも「2018アルバム・ランキング」なんて記事は出てくるけれど、自分には月に何枚もアルバムを買う資金はないし、仮に「ベスト50」を決めようとしても、そもそも50枚なんて新作は聴けるはずがないのだ。
それでも、レンタルやサブスクを駆使しながら、なんとかベスト21を決めることができた。
ここでは、〈アルバムは聴いてないけどこの曲はよく聴いたよね部門〉、〈アルバム部門〉の2つの部門を設けたいと思う。
〈アルバムは聴いてないけどこの曲はよく聴いたよね部門〉ではその名の通り、アルバムを通しては聴いていないけど、曲単位でよく聴いたものをピックアップしてベスト4にした(少ない)。
〈アルバム部門〉ではフルアルバム(一部ミニアルバム)を対象としてベスト21を掲載する。
アルバムについて、spotifyがあればそのリンクと、youtubeへのリンクを貼っておきます。
〈アルバムは聴いてないけどこの曲はよく聴いたよね部門〉
4.DAOKO『終わらない世界で』
My Little Loverの『Hello,Again』とか好きなだけあって、CMでサビの部分だけを聴いたときに「これはいい」となった曲。調べたら作曲は小林武史と知って納得。
フルで聴いても、柔らかくセンチメンタルなポップさだけでなく、DAOKOの持ち味であるラップパートもちゃんとあり、曲全体のバランスはよかった。あと「頑張ってみるから 終わったら抱きしめて」という歌詞はDAOKOが歌うことで説得力が生まれる。
3.テンテンコ『Animal’s Pre-Human』
声が幼いから童謡のような曲にも思えるが、neco眠るとコラボしているだけになかなかカオス。 歌詞も、人間の偽善や無責任さを批判して、辛辣に「猫の方が賢い気がする」と、このMVをバックに歌われていてなかなかカオス。MVは無機質で気持ち悪くて最高なので是非、一緒に聴いてほしい。
2.Lucie,Too『Lucky』
イントロのジャキジャキのギターが既にいい。既にいいのだけど、サビを、サビとも言えないようなあっさりした、潔いものにしようとした心意気が本当に素晴らしい。サニーデイ・サービス『青春狂走曲』もこの構成だけど、「A→B→サビ→A→B→サビ」ではなく「A→B→A→B」という構成が、洋楽では普通にあるけれど邦楽ではほとんど見かけない。バンド初のアルバムのリード曲が「A→B→A→B」で、それでいてスリーピースのガールズバンドなんて、好きにならないわけがない。
今年を象徴する曲といえばこれ。非常にキャッチーで、なぜ好きなのかと聞かれればキャッチーだから、となるのかもしれないが、それだけでは終わらない何かがある。普段あまり音楽を聴かないような人も星野源の新曲やアルバムは聴いている、ってすごいことじゃないかと思う。
アルバムはまだ聴いていないのでランキングに入れるとしたら来年になるんじゃなかろうか。ミュージック・マガジンもそうなるかもしれない。MUSICAのランキングにはアルバム発売前にも関わらず入っていたけど、あれは何だったんだろうか・・・幻・・・?
〈アルバム部門〉
21.横沢俊一郎『ハイジ』
新鋭宅録SSWによるファーストアルバム。ジャケットだけ見ると爽やかだが、曲は変態サイケドリームポップという感じでクセがすごい。フリッパーズ・ギターやディーパーズのような少年風のボーカルに厚いエフェクトがかかり、アルバム全体に浮遊感がある。イントロのシンセが強烈なキラーチューンの『こんな感じのストーリー』、ギターが特にサイケなバラード『僕ら無敵さ』など、耳に残る曲も多く、これからの活動も楽しみ。
20.betcover!!『サンダーボルトチェーンソー』
洒落た音作りをしながらも、どこか歌謡曲的な懐かしさを感じる。
重めのドラムイントロから一転、一拍置いて曲調が変わり、ハミングが心地よい『新しい家』、フィッシュマンズのようなミドルテンポ曲『平和の天使』などいい。
19歳が作ったとは思えない渋めのテイストが面白いし、個人的には同世代のアーティストとして期待を寄せている。
19.バレーボウイズ『なつやすみ’18猛暑』
第一声から力強い1曲目の『アサヤケ』や、『海へ』『卒業』など、海&青春&サイダーという夏休み感満載のアルバム。何より、合唱のもつグルーヴ感に目を付けてロックサウンドに乗せたという試みが面白いし、どの曲もメロディーが優れていて耳なじみがいい。綺麗にハモっていそうでハモりきっていないのもいい。
18.アナログフィッシュ『Still Life』
どんどんお洒落になっていくアナログフィッシュの、安定感あるアルバム。『静物/Still Life』や『Uiyo』などの柔らかくグルーヴィーな曲も持ち味だが、その一方で『Dig Me?』のような力強いポップもアナログフィッシュらしい。何にせよ、2人のコーラスワークは一級品である。
17.冬にわかれて『なんにもいらない』
寺尾紗穂のボーカルの魅力はそのままに、バンドアンサンブルがとても優れている。ポップ・ジャズ・ソウルなど様々な音楽を孕みながら、暴れまくるといってもいいほど跳ねるバックバンドを寺尾のボーカルが優しくまとめ、アルバム全体の雰囲気は、激しいながらも落ち着いた奥深いものに仕上がった。
16.羊文学『若者たちへ』
きのこ帝国の影響を感じる鋭いギターサウンドもさることながら、メロディセンスのよさも秀でている。特に『Step』は繊細さと力強さが同居した傑作で、2018年のベストソングといってもいい。あと、シークレットトラックは(狙ったものだと思うが)聴いていてとても不気味。この不気味さをうまく融合させたような曲も聴いてみたい。
15.きのこ帝国『タイム・ラプス』
前々作『猫とアレルギー』ではその持ち味が失われたように思えたきのこ帝国だが、このアルバムは『フェイクワールドワンダーランド』以前のギターサウンドとメジャーデビュー後のポップなメロディーとのバランスよく仕上がっている。
『WHY』や『夢みる頃を過ぎても』は印象的なメロディーだったし、『金木犀の夜』を筆頭にセンチメンタルな雰囲気をアルバム全体が纏っている。
14.Klan Aileen『Milk』
本能的に、死臭を漂わせながら黒い塊がうごめいているという印象のアルバム。洞窟の中で聴いているような、強烈なリバーブがかかったボーカルやギターの音色は深い水の中で鳴っているようにも思える。
不穏かつ雄大なリフが頭から離れない『脱獄』『流氷』、制御を失ったような硬いギターが前面に出た『Masturbation』など、邦楽ではあまり耳にすることのできない外国の空気感あるサウンドが目白押しである。
13.D.A.N.『Sonatine』
メロディーの美しさが際立つ『Chance』、タブラがユニークな『Replica』など長めの曲と、『Cyberphunk』『Debris』などインタールード的小曲のバランスがよく、聴いていて心地よい。
中でも『Borderland』は10分を超える長尺で、満足いくまで酔うことができる。
12.シャムキャッツ『Virgin Graffiti』
Blurの『Go out』を彷彿とさせるリズミカルなギターリフが特徴的な『逃亡前夜』、『完熟宣言』などストリングスやコーラスに趣向を凝らしたギターポップ、アルバムを締めくくる名曲『このままがいいね』と、いい意味で力の抜けた、優しい雰囲気のアルバム。クラブミュージック的なグルーヴが全編通して気持ちいい。
11.Helsinki Lambda Club『Tourist』
ヘルシンキ・ラムダ・クラブといえば前につんのめるような曲が印象的で、例えばアクモン、Andymoriの系譜かと思っていたけど、このアルバムでは本来の、メロディアスで小気味いいギターサウンドが光っている。
サビが軽やかな『マリーのドレス』、Pavementっぽくて一番好きな『引っ越し』、遊び心を入れつつやっぱりかっこいい『ロックンロール・プランクスター』、一拍おいたリフがたまらない『何とかしなくちゃ』など、若手ロックバンドの中では最も信頼できると思ったアルバム。
10.おとぎ話『眺め』
1曲目の『HOMEWORK』を筆頭に、『HEAD』などサビがあまり目立たない、ループミュージック的な曲構成が特徴的。
加えて、『ONLY LOVERS』『綺麗』『魔法は君の中に』など、おとぎ話の持ち味ともいえるメロディーの良さも十分に発揮されている。特に『綺麗』はおとぎ話史上最上級のメロディーだと個人的に思う。
9.Homecomings『WHALE LIVING』
バンドとしてはじめての日本語詩も、アルバムの雰囲気に合うような優しい物語調でいい。個人的には『HURTS』のようなディストーション気味のサウンドが好きだけど、このアルバムはこのアルバムで、ネオアコ・フォークのジャンルとして聴ける。『Songbirds』だけ毛色が違うようにも思えたが、おそらく『WHALE LIVING』という一つの物語を、また違うレイヤーから締めくくるエンドロール的な役割を果たしていて、そう考えるとあまり違和感はない。
Homecomingsはよくウェス・アンダーソン作品やその劇中の音楽に影響を受けたとインタビューで言及しているけれど、この『WHALE LIVING』は『ムーンライズ・キングダム』とよく雰囲気が似ていて、ニューイングランドもしくはスコットランドの田舎の海岸にある小さな町を想起させる気がする。
8.KIRINJI『愛をあるだけ、すべて』
バンド体制になったのちコトリンゴが脱退したKIRINJIだが、このアルバムでは海外の音楽シーンをふまえ、よりエレクトロニックな、テクノ・ダンスミュージック色を強めた。
それでもメロディーの良さは健在で、『AIの逃避行』『時間がない』などの特にポップな曲、『After the Party』『悪夢を見るチーズ』など少しひねくれた曲、『新緑の巨人』『silver girl』など後半にかけてのメロウな曲と、バラエティ豊かに完成度の高いポップスを鳴らしている。新生KIRINJIの現時点での決定版となるアルバム。
https://youtu.be/iboM79ANVuo
7.Taiko Super Kicks『Fragment』
飄々としていながらもどこか薄気味悪い感じはOGRE YOU ASSHOLEやミツメの系譜にはあると思う。ただ今作は『低い午後』などの時期と比べて、クリアなギターサウンドと切れ味いいアンサンブルが弾けていて、気味の悪さは抜けてきた気がする。
一方で『うわさ』のようなフォーキーで懐かしいテイストもあって、硬くて冷たい印象のアルバムながら、スムーズに脳に浸透する緩やかさを持ち合わせた、不思議なアルバムである。
ただひとつ、『のびていく』なんて聴きやすい方ではあるけれど、できれば次のアルバムではひとつだけとびきりポップでキャッチーな曲を作ってみてほしいという願望もある。
6.くるり『ソングライン』
くるりの4年振り、12枚目のアルバム。前作『THE PIER』が様々な要素を詰め込んだ、多国籍風アルバムだとしたら、この『ソングライン』はフランスの農園でひなたぼっこをする牧歌的なアルバムである。チオビタのCMに使われた楽曲だけを集めた『くるりとチオビタ』というコンピアルバムがあったが、雰囲気はそれに近い。しかし、タイトル曲『ソングライン』にしても、シンプルなサウンドと思いきやとんでもない多重録音で色々な音が鳴っているから、そういう奥深さを味わうのが面白い。
5.カネコアヤノ『祝祭』
バンドサウンドが特にマッチしている、と思った。弾き語りもいいけれど、フルアルバムとして聴くとなるとやはりバンドセットの方がいい。
1曲目『Home Alone』から『ごあいさつ』までの、特にロックバンド的な、強いボーカルの流れ、『ジェットコースター』『ゆくえ』あたりの弾き語りに近い静かな曲たち、そして『グレープフルーツ』『アーケード』。
『祝日』が名曲で、このアルバムの核であることは間違いないけれど、それ以外も捨て曲なし。
それにしても、華奢な体で幼げなルックスなのに力強い歌声で弾き語る、というカネコアヤノそのものの要素があまりにも漫画的・フィクション的で、本当にカネコアヤノって実在するのかな?と思うことがある。
もはや伝説上の存在と化していた天才・国府達矢が15年振りにリリースしたアルバム。とりあえず、こんなへんてこで格好いいアルバムを聴けるのは2018年の”事件”だった。
民謡を感じさせる独特なボーカル、極限まで鋭いリズム隊、それ自体もリズムを生み出し続けるカッティング主体のギター、それらが融合した強烈なグルーヴなど、言語化するのもやっとな、鮮やかな音楽体験があった(『薔薇』『感電ス』『祭りの準備』など特に)。
3.折坂悠太『平成』
ジャズ・ソウルなどのテイストを感じさせつつ、歌謡曲的な、和風の懐かしさがそれぞれの曲に通底する、不思議で魅力的なアルバム。
ピアノ・シロフォン・マンドリン・コンガなどを取り入れた遊び心ある音作りだけでなく、そこで歌われている歌詞もまた力がある。
リード曲『平成』だけを聴くと、ともすればとっつきにくさを覚えるかもしれないが、『坂道』『逢引』なんかはポップ・ソングとしても聴けるほど耳馴染みがいいメロディーである。
しかしながら、このアルバムの全貌はまだ掴めていないように思う。もう少し聴きこまなければならない。
2. ROTH BART BARON『HEX』
新しいのに懐かしい、デジタルなのにアナログ、冷たいのに暖かい...あらゆるものの橋渡しをする記念碑的名盤。
コーラスが神々しささえ感じさせる『JUMP』『Homecoming』から始まり、リード曲『HEX』、低音がよく響く『VENOM』、テクノ・ポップ的アプローチの『JM』、コーラスを手がけたL10MixedItらしさがよく出ている、ヒップホップのようなトラックをバックにメロディーが美しい『SPEAK SILENCE』と、現在の海外の音楽シーンに肩を並べるような名曲ばかりである。メロディーはどこを切り取っても美しく、コーラスを多用した重層的なボーカルはポップ・ミュージックというよりも教会で歌われるような宗教音楽、特にゴスペルを思い出させる。
1.cero『POLY LIFE MULTI SOUL』
ceroの4thアルバム。今までのceroといえば、都会的・聡明さというイメージが強かったけれど、この作品では民族音楽の要素が強く、土埃の匂いを感じるようなお祭り的ムードが漂っている。リズム隊も民族音楽よろしく目立っていて、このアルバムを流しておくだけでずっと踊れる。先行でYoutubeに『魚の骨 鳥の羽根』がアップされて聴いたときには難解だと思ったが、アルバムを通して聴いてみると一番ポップだった。
このアルバムについて語るのはたやすいことではない。驚くほど多くのアイデアとイメージが繊維のように複雑に組み合って、アルバムはひとつの固い生地のまま手元にある。どこからどう解いていこうか、手がかりもなく途方にくれているが、ただひとつ言えるのはケンドリック・ラマーやディアンジェロがチャートを席巻しているこの時代において、ceroもまたポップ・ミュージックにおけるグルーヴの追求をしているのは何ら不思議ではないということだ。ヒップポップやソウルと”ジャンル”こそ違えど、アフロビートを解釈しながら、グルーヴの可能性を探っていくことには変わりない。すなわち、ceroはヒップホップやソウルとポップ・ミュージックの境界線を曖昧にする使者なのである。
2018年、平成が終わる年、日本のポップ・ミュージックにおけるソウル/クラブ/民族音楽の世界を更新するようなアルバムが現れたことを祝福したい。