セルゲイ・パラジャーノフ『ざくろの色』

大学の図書館というのは暇人にとっての聖地みたいなもので、中でも、自由に映画や記録映像を観られる視聴覚コーナーには驚くべきほどの量の洋画が揃っている。

このセルゲイ・パラジャーノフざくろの色』も、もちろんその蔵書(というか、蔵DVD)である。

 『マッド・マックス 怒りのデスロード』のような手に汗握る映画も好きだけれど、同じグルジア出身、

テンギス・アブラゼ監督の「祈り 三部作」がもうすぐ公開される

 と聞いて、じゃあグルジアアルメニア映画を観てみようと思い、パラジャーノフ作品に手を出した。

 

セルゲイ・パラジャーノフ自身はグルジア出身のアルメニア人であり、本編は全編にわたってアルメニア語である。

何より、このアルメニア語の響きがいい。

wikipediaによれば、インド・ヨーロッパ語族にありながらゲルマン語派にもスラヴ語派にも属さず「インド・ヨーロッパ語族アルメニア語(派)」と分類されているらしい。

アルメニアという国自体が、西アジアに位置し、東のアゼルバイジャン、西のトルコというイスラーム教の信仰が盛んな地域に挟まれながらキリスト教を国教としているという点で興味深い。興味深くありませんかね...?

劇中の美術だって、ペルシャ絨毯や装飾品など、どこか中東・イスラームっぽい雰囲気がある。しかし、主人公サヤト・ノヴァは修道院へ入るし、イコンも登場するので、ああやはり、キリスト教の世界なのだなあと実感する。けれども、アルメニア語の響きは個人的にキリスト教と結びつかないこともあって、アラブ世界とキリスト教がマーブル模様を形成しているような、不思議な気持ちになった。そういう点で、アルメニア語はよかった。

 

パラジャーノフと言えば映像の色彩や詩的な世界が言及されることが多いけど、音楽もまたよかった。

 賛美歌のような美しいコラール(恐らくアルメニア語だろうから歌の内容はわからない)が流れたかと思えば、サズやウード(こういうやつこういうやつ)の音色が流れたりするので、舞台はアラブではないのにアラブの風景が思い起こされるのが面白い。

この映画のサウンドトラックとか出たら民族音楽のアルバムとして純粋に聴けると思う。

 

なお、この『ざくろの色』はもともと『サヤト・ノヴァ』というタイトルでパラジャーノフが完成させたものを、ソ連の映画監督セルゼイ・ユトケーヴィッチが再編集したものである。一部シーンは検閲により削除されたのだが、いつか完全版が発見されることはあるのだろうか・・・