鎌田浩毅『座右の古典』

古典を案内した本はけっこう多いけれど、この『座右の古典』は「とにかく時間がない社会人・特にサラリーマン向けの読書案内」といった感じで、50冊の古典を取り上げてその一つ一つの内容や要点を分かりやすい文章で説明している。

中でも「使える」のが、「3行で要約!」という、要点を限界まで簡潔な形で抽出し、3行で大まかな主張や内容を説明しているもの。「忙しい方はここだけでも目を通していただければ幸いである」と筆者がまえがきで述べているように、ここの部分だけ読んでいっても、50冊の中から自分が興味を持った古典を見つけ出せるのではないかと思う。

 

この本で取り上げられている古典は、『論語』やラッセルの『幸福論』など王道中の王道という本もあるのだけど、岡潔『春宵十話』やフォード『藁のハンドル』など、あまりこれまでの古典案内では見かけなかったような本もあって、自分が知らなかった古典を見つけられるという面白さもある。

古典案内にも様々なクオリティのものがあって、河出文庫から出ている『史上最強の哲学入門』シリーズはとてもわかりやすいし文章も面白いのだけど、『座右の古典』はそれに引けをとらないわかりやすさ、というか「わかりやすさ」だけで比較したら『座右の古典』の方がわかりやすい気がする。その分、抽象化されすぎ、と感じる人もいるかもしれないけれど。

 

この本、もとが経済誌での連載だったこともあって、書かれている対象はあくまでもビジネスマンが中心である。しかし、筆者は京大の教授であるから、大学生であるとか、若い世代が読んでも違和感はないように考えて書いているのだと思う。

だから、時間のないビジネスマンだけではなくて、どの古典を読んでいいか迷っている、時間の有り余る学生にもおすすめ(でも、古典ってなかなか読まないよなあ・・・)。